誰もが理解したい人件費管理
発展途上国の所得分配は先進諸国よりも不平等の程度が高い。
その根拠は、経済発展が進むということは国が豊かになることを意味する。
所得上昇の恩恵を受ける人の割合が増加するので、所得分配の平等性は高まる。
一方、発展途上国は制度の近代化が遅れているので旧社会といってよい。
一部の大土地所有者や企業家が支配階級となり、富が集中する可能性が高く、大多数の小作人や労働者・商工業者が被支配階級となりやすい。
すなわち、一部の高所得者と大多数の低所得者が並存するという事態が生じやすい。
所得分配の不平等が予想されるが、資産分配はそれ以上の不平等度を示す可能性が高い。
社会主義国の所得分配は資本主義国よりも不平等性が低い。
その根拠として、社会主義国は労働者階級の権益保護というイデオロギーの性格からして、所得格差の大きいことを社会が認めていないことがある。
さらに政府によって中央集権的に賃金が決定されるので、分配を平等にすることが可能である。
一方、資本主義国の場合、北欧諸国やドイツ、オーストリアなどいくつかの中欧諸国を例外として中央集権的に賃金を決定していない。
むしろ各職場、各工場、各会社など個別に賃金を決定していると言え、分権主義である。
しかも、個人の資質と企業への貢献度(働きぶり)が賃金に与える効果が強いので、賃金格差が大きくなる可能性がある。
これらは自由主義、資本主義の特色でもある。
このとの仮説はデータで証明されるのであろうか。
世界のすべての国のデータを収集することは不可能だし、またさほど意味もないので、一部の国のデータを用いてこのことを検証してみよう。
典型的な発展途上国を集めた中南米諸国の現状であり、旧社会主義国の所得分配の現状を示したものである。
課税前所得を基準にしたジニ係数による結果である。
二〜三の国を除いてほとんどの国のジ二係数が○・五を越えている。
発展途上国の所得分配の不平等性が高いことが確実にいえる。
所得の順位でみて下位二○%にいる人たちが得ている所得の合計が総所得に占める比率も、わずか二%から五%前後である。
低所得者層に入る人がいかに低い額しか得ていないかがこの数字でわかる。
チェコスロヴァキア、東ドイツ、ハンガリーの旧社会主義国の賃金分配や所得分配はその不平等度がかなり低い。
先進資本主義国であるが福祉国家でもあるスウェーデン並みかそれより低い値である。
すなわち平等性がそれらの国は高かったのである。
もう一つの興味ある事実は、統一前のドイツにおいて、旧西ドイツの所得分配の不平等度が、旧東ドイツのそれよりも高いことである。
同民族でありながら経済体制の違いによって、所得分配の実態が異なっていたのである。
この二つの事実によって、仮説は支持されたと言える。
社会主義の性格がそのまま所得分配の現状に反映されていたことは確実である。
旧社会主義国が崩壊して、市場経済に移行した後の所得分配の動向はどのように変化したのであろうか。
仮説が支持されるならば、中央集権社会主義から分権型資本主義に移行すれば、後遺症には相当なものがあった。
その一つがバブルによる資産分配の極端な不平等化である。
ところで一九九○年代に入ってハバブル経済が崩壊し、わが国は未曾有の長期不況に襲われ、金融機関の不良債権問題が深刻になったし、経済成長率がマイナスになる年も出た。
バブル崩壊の一つのメリットは、資産分配の不平等化に歯止めがかかったことである。
土地の価格の値下がりによって、土地を中心にした実物資産分配の極端な不平等化現みはやや減少に向かった。
しかし、金融資産分配の不平等化はまだ消えていない。
もっと大切なことは、戦後五○年間に資産分配の不平等化が非常に静かに進行していたが、バブル経済期にそれが極端に顕在化した後、また元の静かな不平等化の流れに戻ったことである。
さらに重要なことは、バブル期に発生した様々な分野における不平等化現みが、その後もおおむねそのまま残ったことである。
ここでは資産分配について簡単に述べてみよう。
バブル経済の浸透は、実物資産である土地や住宅の価格、株式、債券等の価格が高騰することを意味する。
従って、土地や株式を保有している人の資産価値が急上昇するので、保有資産の格差が強まるのである。
第一に、持ち家のある人と持ち家のない人双方の家計を含めた標本における資産分配の方が、持ち家のある人に限定した標本よりもはるかに不平等度が高い。
それはサンプル(B)のジニ係数がサンプル(A)のそれよりも、橘木推計と経済企画庁推計の両方のデータに関して相当高いことによってわかる。
持ち家のない人(すなわち借家に住んでいる人)の実物資産価値がゼロであるという事実が、この大きな資産格差の主たる原因である。
第二に、両方の推計に関して、バブルの発生期と考えられる一九八五年前後から、すべてのケースにおいてジニ係数が上昇していることである。
サンプル(A)に関して約○・一の増加、サンプル(B)に関して○・○四から○・○六の増加である。
これらの数字は分配の不平等化を示す程度としては相当な増加である。
バブル期に資産分配の不平等化が相当進んだと理解される。
土地を持つ者と持たざる者の資産格差がバブル期を境にして急に顕在化したのである。
不十分ながら二〜三の試みはあるので、それを参考にしながら国際比較をしてみよう。
資産は定義によって、粗資産と純資産(粗資産から負債を差し引いたもの)の二つによって計測されることに注意したい。
しかし不平等に関する両者の計測結果にそれほど大きな差はない。
この表でいえることは、わが国の資産分配の現状は一九八○年代に関していえば、ジ二係数の値が他国より小さい。
資産の集中度を示す上位五%シェアーの数字も二五%とかなり低いので、相当程度不平等度が低いということである。
この集中度とは、上位五%の資産保有者のもつ資産額が、社会全体の資産総額に占める比率である。
まとめれば、わが国の資産分配は他の先進資本主義国よりも相当平等であるといってよい。
最も資産分配の不平等度が高いのはアメリカである。
ジ二係数の高さもさることながら、資産保有の上位五%にいる人の占める資産比率が全資産額の五○%を超えている値が驚異的である。
アメリカの総資産額の半分以上をわずか総人口の五%の人が保有しているのである。
極端な資産分配の不平等といわざるをえない。
これもアメリカの一つの顔である。
しかし、明らかにされたように、一九八○年代後期にわが国はバブル経済を経験バブル経済の崩壊と大不況の到来一九九○年代に入ってバブル経済は崩壊し、それ以降わが国は低成長時代に突入した。
大不況が進行しているといってよい。
金融業以外の企業倒産は戦後どの産業でもみられたが、一九九五年以降は金融機関の倒産もみられるようになった。
一九九七年には、倒産すると考えられていなかった都市銀行や四大証券会社の一角も倒産となった。
戦後五十数年を通じて、オイル・ショック時期に勝るとも劣らない不況と低成長時代の到来である。
これは不況の発生原因やそれへの対応策を検討することが課題ではないので、そのこと自体を論じることはしない。
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